天然香料についてNATURAL FRAGRANCE
天然香料のみで調香された
「自然香水」
19世紀にはいり、科学の発達でもたらされた合成香料によって、当時の調香師のパレットには様々な魅力的な香りが加わり、世界的な名香が次々と発表されて人々を魅了し、香水産業は飛躍的な発展を遂げますが、そのような洗練された香りを人々が知る前、はるか古代のエジプトやローマなどで薫香や浸剤として用いられ、その後、中世ヨーロッパで人々が楽しんだ、天然香料のみで調香された香りとはどのようなものだったのでしょう。
天然の香りには、合成したものではどうしても模倣することができない神秘的で優しく力強い自然の波動が息づいていると言われます。自然の恵みが詰め込まれた香水は、時には人の心を躍らせ、時には優しく慰め、勇気や元気をもたらす「気付け薬」としても使われてきました。
現代でも、天然の植物の精油を調香することで当時の香りを再現することができますが、合成香料の使用によって洗練された香水の美しい旋律に慣れた私たちにとって、それは単にエッセンシャルオイルをブレンドしたものではなく、自己を表現する芸術性の高い香りであり、ファッションを彩るものであってほしいと思います。
これまで独自に重ねてきた香料の組み合わせや濃度の調整などの研究により、天然香料のみを用いたフレグランスアートの調香の技術・メソッドを発展・普及させたいという想いから、この協会は発足しました。
フレグランスに使われる天然香料
天然香料は、天然の植物の様々な部位(果実・ハーブ・葉・花・種子・樹脂・根・スパイス・木など)から抽出した100%ピュアな香り成分でできています。この自然の恵みそのものであるエッセンシャルオイルをブレンドすることで、バラエティーに富んだ香りを楽しむことができます。
フレグランスに使われる天然香料を香調タイプ別にご紹介します。
- 香調タイプ調香タイプ / 天然香料の説明
- 天然香料の説明
- シトラス
- フレッシュでみずみずしい柑橘系の香りのベルガモット、マンダリン、シトロン、クレメンタイン、グレープフルーツ、レモン。特にベルガモットの香りにはボリュームとまろやかさがあり、フローラルなどのミドルノートと調和しやすいため、名香と言われる多くの香水に使われています。
- アロマテック
- 清々しい香草の香りのラベンダー、セージ、ローズマリー、軽快なスパイスの風味豊かなアニス、バジル、ローリエ、フェンネル、ディル、また爽快感あふれるペパーミントやスペアミント。アロマと言えば代表的なラベンダーは、癒し的な印象とは異なり、香料としては意外と強く主張するため、少量を加えると爽やかな清涼感をもたらし、男性用の香水にもよく使われます。
- グリーン
- 葉をちぎったり茎を折ったりしたときの青い匂いを彷彿とさせるガルバナムやバイオレットリーフ。フローラルグリーン調の香水Vent Vert(P.Balmain)などに用いられるガルバナムは、花の香料に少量をブレンドすると、摘みたての花のようなフレッシュさを添加し、自然に包まれたような安心感をもたらします。
- フルーティー
- シトラス系以外では数少ない天然のフルーティーノートとしては、オスマンサス(金木犀)、ブラックカラント(カシス)の芽。オスマンサス(金木犀)の香りは小さな花の香りでありながら、アプリコットやトロピカル系のフルーツを思わせます。
- フローラル
- 甘くうっとりとする花の香りのジャスミン、チュベローズ、オレンジフラワー、イランイラン、ライラック、ガーデニア、マグノリア、パウダリーで優しい香りのアルバローズ、アイリス、清涼感があり香り高いローズ・ド・メ(センティフォリア)、ダマスクローズ、ローズゼラニウムなど、最も種類が多い香調であり、ローズやジャスミンなど単一の花をテーマとしたり、複数の花のブーケの香りを楽しみます。特にローズ、ジャスミン、イランイランの組み合わせは定番といえます。
- スパイシー
- フレッシュ系スパイスのコリアンダー、カルダモン、ジンジャーは拡散性が高いためトップやミドルとよく調和して清涼感をもたらし、ホット系スパイスのブラックペッパー、シナモン、ナツメグ、クローブはラストノートとよく調和して甘さと持続性をもたらします。
- モッシー
- 土臭く温かな香りのオークモス、パチュリー。オークモスは、近年の国際香粧品香料協会(IFRA)による使用の規制がありますが、多くの名香に用いられた香りで、香水に繊細で気品のあるニュアンスをもたらします。
- ウッディ
- 温かみと持続性のある香り、シダーウッド、サンダルウッド、ローズウッド、ベチバー。唯一、木ではなく草の根から香りを抽出するベチバーは、土の温かくほっこりとした甘みのある香りで香水の高級感と持続性を高めます。
- バルサミック
- 甘く柔らかな香りのバニラ、トンカビーンズ、ベンゾイン、ペルーバルサム、シストローズ(ラブダナム)、古来から神殿などで使われてきた樹脂の香りであるフランキンセンス、オポポナックス、ミルラ、スチラックス、そして華やかで甘くパウダリーな香りのオリス(イリス)。トンカビーンズは世界で初めて作られた合成香料クマリンを含む天然香料で、杏仁や桜の葉のような香りを現代のグルマン系(アーモンドやお菓子のような香り)の表現に用います。オリスはパウダリーな芳醇さをもたらす香りで最近のブランド香水のトレンドとしても用いられます。
- アニマリック
- 動物性ではムスク、シベット、カストリウム、アンバーグリスですが、動物性香料は倫理上の問題から現在天然香料が使われることはほとんどありません。植物性では、ムスク様の香りをもつアンブレット・シードが使われます。アンブレット・シードはアオイ科の植物の種子から抽出するオイルで、とてもまろやかでややバルサミックな官能性が感じられるアンバーグリスに似た香りです。